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#twnovel




●夜の水面に糸を垂らして、三日月を釣った気になった。竿を上げてしまえば最後、釣果にはならないと知れてしまう。けれどそれならなおのこと、今だけ幻に浸りたい。細く輝く金色は、夜風に吹かれて小さく揺れた。いつかは湖面を横切る月を、束の間手に入れ支配者を気取る。

●素顔のほうが好きだと言ってくれるのは嬉しいけれど、僕の眼鏡を取り上げて喜んでいる笑顔は絶対に見られないから、やっぱり君の前で眼鏡を外すのは好きじゃないんだよ。

●だからあたしは雨女だって言ってンでしょ。雨降ったくらいでぐだぐだ言うんじゃないよ。傘も持ってこないなんて馬鹿? ああもう、これくらいでしょげてンじゃないよ。ホントに情けないね。ほら。入れてやるからそんなトコで濡れてんじゃないよ。こっちおいでってば。

●なんでそんなにめそめそしてンだい、坊や。運動会がなくなったのはあんたのせいだって? 雨男とは一緒に遊びたくないって? 馬鹿だね、その程度の雨男なんて可愛いもんさ。言ってやりなよ、雨のあとは虹が出るとかなんとかね。あたし? あたしなら雨女だよ、本物のね。

●「おめでとう、と言うべきか、残念、と言うべきか」重い灰皿を振りかぶったアイツとの間に、誰かが呑気に割りこんだ。毒気を抜かれて硬直するアイツを無視し、僕ににっこりと笑いかける。「プロット変更だそうだ。ミステリ作家は大変だね」なんと死ななくてもいいらしい。

●コートの裾を閃かせ、彼女が階段を駆け下りる。緋色のマフラーが長くはためき、黒いトレンチに鋭く映えた。「そんなに急がなくったって良いだろ」呆れ声の呼びかけに、「好きなのよ、ロングコートを翻すの」隙のない服に包んだ無邪気な微笑を抱き寄せたくて、僕も階段を駆け下りる。

●キャンディ、クッキー、パンプキンパイ。お菓子を抱えてはしゃいでいたら、後ろから魔女に小突かれた。「調子に乗っちゃって」「大丈夫さ。狼少年は嘘つきなんだから」牙を覗かせ、小さな狼男はにかりと笑う。「化物気取りのほうがヒトっぽいぜ」祭りの日、異形も人に紛れ込む。

●綺麗な匂いに誘われて、賑やかな夜を覗きこむ。とんがり帽子に大きな箒。黒ワンピースの裾に散った、星空みたいなラメとレースがどうしても欲しくなった。お菓子はここよ、可愛い魔女さん。水晶の箱庭に閉じこめて、ずっと眺めていてあげる。

●「変わった所に居ますね」顔を上げると、困ったようないつもの微笑が見下ろしてくる。「雨女が日向ぼっこしてちゃ悪いかい」「いいえ。隣、良いですか」「好きにしな。でも影になるんじゃないよ」「しませんよ」「いつまで持つかね、この天気」「大丈夫、僕が居ます」晴れ男が笑う。

●寒くなったねと君がくれたのは、まだ少し青い蜜柑だった。食べ頃を待とうと籠に盛る。毎朝眺める果物籠に、ちょこんと載った君の面影。鮮やかに色づいて柔らかくなっても、皮を剥く気にはなれなかった。僕は罠に掛けられたのかい? その果実はもう、甘すぎる別の名を持っていた。


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