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#twnovel

14


●どうして気づきもしなかったのだろう。そもそも根本から間違っていたんだ。欲しかったのは綺麗な思い出でも柔らかな笑顔でも、繋いだ手の温もりでさえない。欲しかったのはただ、君の姿かたちそのものなんだ。だから頂戴、君の姿を。そしてさようなら、邪魔な魂。

●古いフィルムを現像し、セピア色の絵葉書を作る。憶えていますか、この海を。二人で並んで足を浸した波打ち際を。小さく記して切手を貼った。これは戒めです、その言葉は書かないまま、隣で眠る人を見遣る。私のことなど見向きもしなくなってしまった貴方へ、乾きかけの愛をこめて。

●どう足掻こうとも無駄でしかない。抗ったところで己が身に返ってくるだけだと解りきっている。だから受け入れたのだ。諦めたのだ。それだけの話なのになぜ、こんなに必死で訴えるのだろう。「それじゃ可哀想だよ」嗚咽交じりの言葉に返す術もなく、血の滴る刀を提げて立ち尽くす。

●伸ばした手の指先が触れたところで目が覚めた。翳した手になんの跡も残っていないことを確かめて、理性はやはりと納得し、感情はやはりと落胆する。目覚まし時計が鳴る前の、ほんの短い微睡みの間。夢にしか見られぬ姿を思い、布団にくるまり寝返りを打つ。あと数分だけ、幻を。

●眠って起きれば明日が来る。だから眠りたくないのだと、駄々をこねる夜がある。布団に潜り電気を消しても、両眼はぽっかりと開いている。掠める無形の幻は、夢かあるいは現実か。嫌だ、夢越しの明日なんて欲しくない。抗う意識とは裏腹に、今日も朝に繋がる夢へと堕ちる。

●得物を構えてひたと見据える、その眼差しに焦がれたはいつか。冷たい刃の切れ味に、その立姿を重ねたはいつか。触れてはならぬと解っていても、手を伸べたいと願ってしまう。所詮この身は人ならぬ身体、いずれ叶わぬ望みであれば、せめて一太刀に斬り伏せてほしい。

●大人の事情だとか、子供には解らないだとか、好き勝手言う大人たちに嫌気が差した。子供の論理と嗤わば嗤え。そっぽを向いた中学生に苦笑交じりでかけた言葉を、先生、貴方は憶えていますか。その一言があったから、私はこの春教師になるのです。

●晴れ着が着たかったの、と言って、彼女は気恥ずかしそうに微笑んだ。形だけでも大人に。鏡に映れないのが残念だけれど。振袖姿の若い死者は、着物の柄を確かめるようにくるりと回ってふつりと消えた。独りきりの成人式を見送って、喪服姿の「葬儀屋」は歳を取れない我が身を思う。

●雪に降られた幼い日、こどもが一人、吹雪に消えた。凍てつく分厚い氷の下で、こわいほど白い雪になった。こどもの面影を抱いたまま、惰性で重ねた歳も限界。ごめんなさい、どうしてもおとなになれませんでした。謝罪を呟き吹雪の森に、初恋を封じる檻を求めて迷いこむ。

●空気の密度に耐えかねて、小さく深く息を吐く。瞼を閉じると空間が消え、束の間ふわりと闇に浮く。そう、世界はこんなにも広いのだ。視界に入るものだけが、この世の全てであるはずがない。言い聞かせながら目を開けると、視界は貴方で満たされた。嗚呼、やはり世界は狭すぎる。


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