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#twnovel

13


●ミルクティの缶を両手で包み、ぼうと辺りを眺める。ベンチは確かに公共物だが、子供が無邪気に叫ぶ公園に陣取っても異分子にしかならない。仕方がない、もう他に居場所がないのだ。ぷしゅり、と缶を開けると甘い匂いが漂った。コートのポケットには、撃ったばかりの銃が眠っている。

●ふかふかのパンに分厚い肉、たっぷりのレタスとトマトに、影の功労者ピクルス。「ここのハンバーガーがおいしいのはようく解ったけど」ナイフとフォークを振り回して彼女が口を尖らせる。「デートのチョイスとしては最悪」距離が縮まった記念だなんて、口が裂けても言えないけどね。

●うすいもうふをかぶった子どもに、おじいさんがききました。ほしいものはあるかい。子どもはやぶれたカーテンのすきまをさして、おほしさまがほしい、とこたえます。おじいさんはやさしくうなずきました。きみはきれいなおほしさまになるよ。子どもはにっこりわらって目をとじます。

●芝生は広がる。刈りこまれ、高さの揃った青い地面。子供が寝そべるか、恋人が座るか、それとも犬が駆けてくれるか。芝生は想い土を覆う。笑い声を受けとめる絨毯に、いつかなろうと夢を見る。細胞を殖やすその場が箱庭であることも、太陽が蛍光灯にすぎないことも、芝生は知らない。

●パンをトーストしながらコーヒーのお湯を沸かして、布団の中から湯たんぽを取りだした。ぎゅっと抱えると、辛うじて残る温もりが存在を主張する。人恋しさから抱えた湯たんぽは、夢と一緒に夜に溶けた。ぬるま湯を捨てるとトースターが鳴る。今日も君の居ない一日が始まる。

●笑顔を作る綿飴の砂糖、悪戯ウインクに模したスパイスの刺激、少女の材料は揃えたはずが、不思議となにかが欠けている。おかしいな、レシピが違うはずはないのに。――夢想家の少年は知るはずもない、敢えて省いたそばかすこそが、少女を少女たらしめていることを。

●お蕎麦をゆでてお出汁をかけて、大きな海老の天ぷらを載せた。仕上げに刻み葱の緑。毎年同じように作るけれど、今年は少し気合が違う。特別製のランチョンマットでおめかし、ぱちりと撮ってメールに添える。異国で働くあなたへ、日本はもう年越しです。来年は一緒に過ごせるかしら。

●吹雪に影を浮かべる裸の樹に、紅く燃え盛る幻を見た。瞬きを忘れて見上げる視界を、桜吹雪が霞ませる。舞い荒れるのは花弁か六花か。頬を打つ風の冷たさに思わず顔を伏せると、妖しい微笑が掠めた。季節の狭間に迷いこみ、目も開けられずに立ち竦む。口紅のいろばかりが紅すぎた。

●福袋なんて好きじゃないって言ってるのに、わざわざ買ってくるなんて物好きね。ワンピースなんて着る柄じゃないって、ようく知っているくせに。口を尖らせて袋を開ける君は、自分で言うより楽しそうなんだよ。いつもは着ない服装まで見られるんだから、僕だってそりゃ楽しみさ。

●頭痛が痛いと言うと笑われるけれど、言っているこっちは大真面目なのだ。頭痛はいつだって額の裏側に棲んでいて、時折目を覚まし圧力をかけてくる。良い加減にしてくれ、と薬でねじ伏せても、にやりと嗤って眠りに就くだけだ。頭の裏には頭痛が棲んでいて、今日も静かに暴れだす。


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