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#twnovel

15


● 誇りを持って戦いなさいと微笑して、白い手は銀の杖を差し出した。選ばれた少女に替えはない。杖の力はあなただけのもの。煌めく銀は有無を言わせず、解錠の言葉を待っている。こうして求めてくれるのが、あのひとであれば良かったのに。兆す絶望を飼い殺し、希望の呪文を口にする。

●迸る光は闇を貫く。世界の破滅を止められるのは、杖の少女でしか有り得ない。三日月に嗤う唇を見上げ、最後の力で少女はゆるりと立ちあがる。銀の杖に秘められた、希望を繋ぐ最後の言葉。口にしようとした瞬間、過去の絶望が鎌首をもたげた。この世界、護ってしまって本当に良いの?

●回転木馬が怖かった。綺麗に飾られた遊具は素晴らしく魅力的なのに、優雅な音楽が始まった途端、くるくると不気味に踊りだす。同じ場所から進めもしない、無意味な乗り物にまたがって、繰り返す景色に嬌声をあげる――本当に恐ろしかったのは、笑うこどものほうだっただろうか。

●夜の観覧車は天国に近づくらしい。硝子に貼りついて見下ろすと、星空のような夜景が広がっている。ねえ見て、上も下も星空よ。振り返るよりも、優しい言葉のほうが早かった。そうさ、だから君も星になるんだよ。頂点を過ぎたゴンドラの中で、ひとつの生が星空に沈む。

●スピードが好きだと言ったよね。高いところが好きだとも。じわじわと高みに上り転げるように疾駆するコースターは、いつでも君のお気に入り。だけど夜には要注意。下り坂の先で闇に紛れて、ぽかりと口が開くんだ。レールの向こうの赤い舌、君には見えていないのかい。

●楽しい時間はもう終わり。 今宵もパレードの始まりだ。煌めく馬車は姫を乗せ、光る妖精が宙に踊る。沿道を上から見下ろして、綺麗な姫は王子探し。笑顔で指をさされた少年たちは、ひとりふたりと列に加わり、二度とは戻らないのだという。きらきら光る夜のおはなし。

●犯人は貴方ですねえそうでしょうだって私じゃないんだもの。一本調子に並べ立て、彼女はあどけない笑みを見せた。そうだねきっとそうなんだろうだって君がそう言うんだから。同じ調子で返すと、彼女は嬉しそうに、僕の手にそれを押しつけ去っていく。残ったのは、誰かの赤に染まった短剣。

●時計の針はくるくると回る。経った時間を数えるのも億劫になって、ただひたすらにキーを叩いた。終業時間は過ぎたのに、終わる気配のない仕事。マウスから離した手が、またデスク脇の箱に伸びた。これで幾つになったのか、数えるのも怖いチョコレート。今日もドーピングに頼りきり。

●まるい鏡に映るのは、ぽっかり輝く黄金色。やせた細い姿から、ふくふく育ってまるくなる。金平糖を平らげて、暗い夜空をしずかに照らす。三日月の寝台に夢を見たのは、あれは幾日前のこと。幸せに満ちた頬っぺに憧れて、やせた小さな少年は、病の床から鏡に掬った空を見る。

●微笑んだ貴女が囁きかけた、唇の形が思い出せない。ゆるりと組んだ脚の形も、グラスを摘んだ指の形も、見据えた瞳も憶えているのに。貴女はなにを告げたのでしょう。グラスに満たした琥珀色は、喉を通って身体に融けた。内側を焼かれる感触は、残酷なほど確かなのに。



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