小さなスツールに腰掛けたまま、僕は目を覚ました。 ぼんやりと顔を上げる。眩しかったはずの夕日はもうとっくに沈んでいるらしく、病室の白いカーテンはただひたすらに白かった。 スーツの肩を回すと、身体の軋みを露骨に感じた。またうたた寝をしてしまっていたらしい。せっかく仕事が早く終わったのにこれじゃ残業後と変わんないな、と思わず苦笑した。 視線をベッドに戻すと、チューブに繋がれた妹は、穏やかな顔ですうすうと眠っていた。それで安心する。様子を見ようとちょっと寄るだけのはずだったのだが――予想以上に長居をしてしまったようだ。 妹の寝顔は穏やかだった。 僕が入ってきたときには、なんとなくうなされているような気がしたのだ。だから離れられなかった。うなされることなどありはしないのだろうが。 ――そんな暇があるならこっちに戻ってこいよ。 瞼の裏とやらはそんなに居心地が良いのだろうか、と、いつかの夢に現れた青年を思いながら考える。どうせ居続けるのなら少しでも居心地の良い場所に居てほしいという兄心もあったが、それよりなにより目覚めてくれるのがいちばん嬉しい。それはもちろん、僕以上に両親のほうが感じていることだろうけれど。 ――早く帰ってこいよ。父さんも母さんも、こっちで待ってるんだから。 少し乱れた髪を手で梳いてやりながら、口には出さずに呼びかける。 妹が、少し大人びた笑みを浮かべたような気がした。それは僕の妄想なのだろうか? ――どっちでも同じことだ。 うんと伸びをしてから立ち上がる。最後に一度だけ振り返ってから、僕は白い病室を後にした。 《了》
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