シンデレラの居ない家




 得がたければ得がたいほど、手に入れたときの喜びは大きい。そして二度と手放したくないと思う。――だから私の周りには、護りたかったものが山ほどあった。
 子供たちはその最たるものだった。自由を得たいという望みは、私自身のためであると同時に、彼らのためでもあったのだ。離婚が正式に成立したとき、私は黙って子供たちを抱きしめた。彼らを護りぬこうと改めて誓った。なにに怯えることもなく、彼らの幸せを考えていこうと思った。
 一人が欠けた家族は平穏を取り戻した。
 やがて、再び愛する人に出会った。
 私たちには新たな家族ができた。
 ぎこちなくはあったけれど、私たちはひとつの共同体になった。少なくとも表面上は、[いさか]いもなかった。この小さくて平凡な幸福を、護りたいと思った。護りたかった。
 けれど新たな家族は、運命に呆気なく奪われた。
 運命などという安い言葉を、目の前に突きつけられてしまったことに呆然とした。もう二度と手放すまいと誓った幸福は、かくも[もろ]く崩れ去った。
 一人が欠けた家族は少し歪んだ。
 けれど、残ったものを護りたいと思った。もう二度と手放したくないと思った。
 ここは私の家なのだから。


  top